相続対策は何のためにするものかご存知でしょうか。相続の話題に関連して「相続対策」という言葉を耳にすることも多いと思いますが、具体的にどのようなメリットが得られるのか、そして何をするのかについても知らない方がほとんどかと思います。
ここで相続対策のメリットを簡単に説明していきますので参考にしていただければと思います。また、そのメリットを得るための対策例についても紹介していきます。
目次
相続対策をするメリットの1つ目は「遺産分割に関するトラブルが防止できる」ということです。
相続開始後、遺産をめぐって家族・親族が揉めるケースがあります。誰がどの財産を取得するのかが争点となって大きなトラブルに発展するおそれもあります。
それまで良好であった家族関係も相続をきっかけに悪化してしまうかもしれません。そこで、こうした問題の発生を防ぐため、被相続人が事前に対策を打っておくことが大切です。適切な相続対策を行うことで、遺産分割で揉めることがなくなる上に、各種手続きもスムーズになります。さらに本人の意思を遺産分割に反映させることができるという点でもメリットがあると言えます。
例えば「特にお世話になった人物に大きな財産を渡す」「法定相続人ではない孫にも財産を渡したい」といった希望を実現することも可能です。
遺産分割に係る対策例としては、一番に「遺言書の作成」が挙げられます。
遺言を残すことで、相続開始後の遺産分割につき相続人らを法的に拘束することができるからです。ただし、こうした法的効力を生じさせるためには、法律に則り適切な形で遺言書の作成ができなければなりません。
また、遺留分という一定の相続人に保障される取得割合を侵害するとその分の請求がなされるなど、後々面倒なことになってきますので法律をよく理解しておかなければなりません。遺言書の作成も簡単ではないため、専門家に相談して作成を進めるのが一般的です。
また、生前に直接財産を渡すことで遺産分割に向けた対策とすることもできます。この観点からは「生前贈与」が具体例として挙げることができます。
生前贈与はその名の通り、本人が生きているうちに贈与を行うことを言います。相続を見越して財産を渡しておけば、少なくともその分に関しては本人の意思を反映させることができます。生前に本人が対応することになるため、他人に手間をかける心配もありません。
相続対策をするメリットの2つ目は「相続税額の減額ができる」ということです。
相続により取得した財産は基本的に相続税の課税対象となります。そのため受け取った財産そのままの経済的恩恵を受けられるわけではありません。要は、1億円の預貯金が遺産であったとしても、そのまま得られるわけではなく相続税分を引いた額が実質の取得分となるのです。しかも相続税は累進課税制度を採用しているため、遺産額が大きいほど納税額も大きくなります。
しかし事前に対策を打っておけば、この相続税の納付額を下げることができます。
相続税対策の手法は多岐にわたります。その計算自体複雑ですし、ルールも、控除制度も複雑です。そのため具体的な対策は各事案に応じて大きく変わってきます。
大切な観点としては「相続財産評価額を減らす」ということが挙げられます。
例えば宅地などの不動産は価額が大きいため、特例により評価額を下げることがとても有効です。小規模宅地等の特例であれば大きな減額効果が得られますので利用を検討すると良いです。
なお、同特例における減額割合は、その土地の利用区分などに応じて決められています。
被相続人が生活をするのに使っていた宅地であれば、330㎡を限度に80%の減額割合が適用されます。
被相続人が事業のために使っていた宅地である場合には、貸付事業かどうかによっても区分されており、貸付事業以外の場合には400㎡の限度で80%の減額割合が適用され、貸付事業用であるときには一定の場合を除いて50%の減額割合が適用されると規定されています。
なお、他にも要件が細かく指定されていますので、詳しい適用可否および減額割合に関しては相続に強い税理士に相談するようにしましょう。
「非課税財産の活用」も節税効果として有効です。
相続税における非課税財産は大きく4つに分類されます。
1つは墓石や墓地、仏壇仏具、神棚などです。
他にも国や地方公共団体など所定の団体にした寄付も非課税となります。なお対象となるのは公益目的を持つ団体です。
そして相続税の減額を狙いとした場合に特に重要になるのが「生命保険金」と「死亡退職金」です。死亡を契機に受け取ることになるこれら金銭はそもそも純粋な相続財産と言えるものではありませんが、被相続人が負担をしていた場合には実質相続財産であると扱われます。そのため一定の範囲内での課税は避けられません。具体的には、「500万円×法定相続人の数」を超えた分は相続税の計算に含めなくてはならないのです。
ただ、逆に言うとこの非課税枠を理解して生命保険の契約を結べば節税対策となります。法定相続人の数はほとんどの場合で予想ができますし、少なくとも確定できそうな範囲で保険金の設定を行えばまるまる節税効果を得ることができます。
相続財産が少なければ、当然、算出される相続税も小さくなります。そこでここでも生前贈与がポイントになってきます。
ただし、基礎控除額を超えて贈与を行うと贈与税が課税されますのでその範囲内で行うことが基本となります。つまり、年間110万円以下に抑えて生前贈与を繰り返すことになります。
また、相続開始前3年以内になされた生前贈与は110万円以下であったとしても相続税の計算に含めなくてはならない点にも注意が必要です。そのため生前贈与で節税対策を取るのであれば、できるだけ早めに着手することが大切です。
あるいは教育資金贈与の特例、結婚・子育て資金贈与の特例を利用して贈与するのも検討すべきでしょう。この特例であれば控除額が1,000万円を超えてきますので、少しずつ毎年生前贈与をする場合に比べて大きな節税効果が得られます。また、長期的な対策を取る必要がない点でも優れています。控除額の大きさに加えて、これらの特例を使った贈与に関しては、相続前3年以内の贈与を相続税の計算に含めるというルールが適用されないからです。
こちらも相続税に関連しますが、3つ目として「納税資金の準備ができる」というメリットも挙げられます。
相続税の納税が求められる場面において、仮に取得した財産がすべて現金や預貯金であればこの点あまり問題にはなりません。取得した財産が、すぐに納付できる形であるからです。
他方、不動産や動産などを取得した場合、納付する金銭については自己負担となります。1億円の自宅を相続したとすれば大きな財産を得たことになりますが、その分大きな税負担を負うこととなり、一緒に現金等も取得しておかなければ税を納めることができなくなるおそれがあります。
そこで事前の対策が大切です。被相続人となる方があらかじめこうした事態を想定して準備しておけば残された家族等が困ることもなくなります。
「納税資金の確保」「保有財産の見直し」がポイントとなります。
前者の対策例として、相続税がかかることを想定して現金や預貯金をある程度残しておく、生前贈与により渡しておく、生命保険を利用して現金が相続開始後渡るようにする、といったことが挙げられます。
後者の対策例としては、特に不動産につきその必要性を検討することが必要と言えます。不動産の取扱いは難しく、相続人も困ることが多いです。自宅として使っており、配偶者が今後も使用する場合にはそのまま残す必要がありますが、使っていない不動産があるのなら生前に売却することも検討します。
どの手段を取るにしても、専門知識を備えていなければ有効な対策となりません。そのため一般の方は、「弁護士や税理士などのプロに相続対策の相談・依頼をすること」が一番の対策になると理解しておきましょう。その一手により上記メリットすべてを得ることができるでしょう。