「認知症になった場合に備えて不動産の管理を子どもに任せたい」「私がいなくなってからも、障害のある子どもの生活費を支援したい」「この土地を引き継ぐ人物を指定したい」など、様々なニーズに家族信託は応えることができます。
目的に応じて契約内容には工夫が必要ですが、全体の流れに大きな違いはなく、おおむね手続は共通しています。
家族信託に興味があるという方は、当記事で家族信託を始めるまでの手続をチェックしてみてください。また費用が発生することについても忘れないようにしましょう。
家族信託は信託法の規律に従う民事信託の1種です。民事信託を家族内あるいは親族内で行う場合に「家族信託」と呼んでいます。
そこで家族信託を始めるには、財産を託すことのできる人物が身近にいないといけません。キーマンとなるのは「受託者」です。受託者として選任した方に財産を預けて、その後の管理権限も託すこととなるためです。
とはいえ受託者に適した家族がいないときは無理に家族信託を行わなければいいのであり、銀行などが提供している信託サービスを活用するのも1つの手です。
また、家族信託を始めるためには信託契約の締結が必要で、その際「契約書」が必要となります。法的には契約の成立のために必須というわけではありませんが、実務上、信託が行われていることの証明を求められた場面で提出することになりますので必要なものと捉えておくべきです。
そしてもう1つ、「信託口口座」の開設も重要です。これは信託専用の口座として開設する口座で、口座名義からも信託用であることが判別できるものとなっています。受託者の個人名義で口座を開設し、それを信託用として使うこともできますが、この場合は名義から信託用であることが明らかではありません。
個人の財産と信託財産は分けて管理されなければならず、その事実を客観的に示すためにも信託口口座の開設はしておきたいものです。
上に挙げた「受託者の選定」「契約の締結」「信託口口座の開設」をそれぞれ進めていくことになりますが、手続を細分化すると次のような流れで説明することができます。
注意しておきたいのは、家族信託以外の選択肢を除外してしまわないことです。家族信託は便利な仕組みで、有効活用すれば多くの問題に対処できますが、あらゆる悩みを解決できるわけではありません。
現在の悩みをよく考えてみたところ「他の制度の方が適しているのではないか」と気づくこともあります。場合によっては「家族信託と成年後見制度の併用が良いかも」と2つの仕組みを使うケースもあります。
家族信託を始めるには費用も発生します。
いくつかカットできるものもありますが、費用をかけてでも安全に取り組むべきかどうかは要検討です。
家族信託で必要な費用 | |
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専門家への依頼料 | ・税理士や司法書士、行政書士、その他信託に強いコンサルタントなどの専門家を活用する場合に発生する。 ・悩みに対応した最適な信託契約の設計や手続のサポート、トラブルへの対処、税額の計算などを依頼することができる。 ・特定の相談業務、代行については有資格者にしか依頼ができず、税金のことなら税理士、登記のことなら司法書士に頼る必要がある。 ・金額は依頼先や依頼範囲によって大きく異なる。ピンポイント(「登記申請のみ」など。)での依頼ではなく、信託全体のコンサルティングを依頼するときは、「信託財産の〇%」などと定められることもある。 |
公正証書の作成手数料 | ・信託契約を公正証書化するとき、公証人への報酬として手数料の負担が発生する。 ・数万円~2,30万円ほどまで、金額は信託財産の価額により変動する。例えば信託財産が3,000万円であれば「23,000円」、信託財産が1億円であれば「43,000円」となる。 |
信託口口座の開設費用 | ・費用の有無、金額は金融機関により異なるため要チェック。 |
各種税金 | ・委託者と受益者(信託による利益を受ける当事者)が一致しないときには対価の有無により贈与税や譲渡所得税が発生。 ・不動産を信託するときは登録免許税が発生。 ・その後家族信託を継続していく中でも固定資産税や所得税が発生することもある。 ・家族信託の終了に伴う財産の帰属の仕方によって贈与税や譲渡所得税、相続税なども発生する。 |
受託者への報酬 | ・受託者の仕事に対して報酬を支払うこともある。契約書にその旨規定したときに発生する。 ・月々数万円ほどの報酬額、または資産運用を行う場合は「収益の〇%」と設定されることもある。 ・適切に家族信託が行われていることを確認するため、信託監督人や受益者代理人を選任することもある。このとき、別途報酬の支払いが必要になることもある。 |
家族信託を成功させるには、専門家のサポートも受けて適切な形でスタートを切ることがとても重要です。
ただ、目的に合った最適な信託契約を交わすことができても、その通りに受託者が実行してくれなければ意味がありません。家族信託に伴い仕事を遂行するのは受託者自身ですし、その方がしっかりしていなければ成功はさせられません。
そこで受託者選びは慎重に行うべきです。
まず、人として信用できること、責任感があって最後まで頼まれたことをやり遂げてくれるような人物を選ぶべきです。長期的な運用を検討している場合、委託者自身が判断能力を失ったり亡くなったりした後も家族信託は続きます。そのため監視が行き届かなくても安心して任せられる方を選んだ方が良いです。
そのうえで、信託財産の内容に合わせて管理能力を有していることも重要な判断ポイントです。不動産を信託するなら不動産に知見があって、これまでにも運用をしたことがあるなど、特別な知識や経験の有無にも着目すべきです。
「預貯金から一定額引き出して生活費に充ててほしい」といった要望であれば高度な能力も不要ですが、信託する財産によっては能力面にも目を向けなくてはなりません。
また、受託者のモチベーションを保ち、不正等を防ぐという意味でも報酬の定めは有効かもしれません。
上述の通り、家族信託を始める際や開始後、終了時などにも税金がかかります。信託のやり方によっては大きな税額の納付義務が発生することもありますので、手数料などの費用だけでなく税金にも注視しないといけません。
また、家族信託は基本的に節税効果が期待できるものではありません。贈与税や相続税を回避する目的で使うことは難しいため、この点も留意しておきましょう。
考慮すべき税目も多岐にわたり、課税される場面も様々です。これから始めようとしている家族信託で「どの税金が発生するのか」「いくらかかるのか」、あらかじめ税理士にも相談のうえ、把握しておくと予算も組みやすくなるでしょう。