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家族信託とは? ~民事信託との違いやメリット・デメリット、活用法について~

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日本の人口は1億人を超えていますが、そのうち3割ほどを65歳以上の高齢者が占めています。今後さらにこの割合は増していくとみられ、認知症による資産凍結のリスクにさらされる方も増えていくと予想できます。

 

これは判断能力を喪失することに伴うリスクで、その備えとして「家族信託」が近年注目されるようになっています。便利な仕組みなのですが一般に馴染みがあるとはいえず、その有効性に関してもあまり知られてはいません。

 

そこで当記事では「家族信託って何?」「どんな活用法がある?」と疑問を持つ方に向けて、仕組みの概要やメリット・デメリットについて紹介をさせていただきます。

家族信託とは

信託には種類があり、大きく商事信託と民事信託にわけることができます。2007年の信託法改正までは信託業法に基づいて免許を受けた信託銀行などの事業者しか認められていなかったのですが、法改正を受けて一般の方でもこの仕組みを活用できるようになっています。
そして信託銀行などが行う信託を商事信託、その他の方が行う信託を民事信託と呼んでいます。

 

また、法律上定義された言葉ではありませんが、民事信託のうち家族間で行う信託を「家族信託」と呼んでいます。そのため法的な意味合いとしては民事信託も家族信託も同じといえます。

家族信託の仕組み

家族信託では、財産を持つ方が、判断能力があるうちにその財産を信頼できる家族に対して管理を委ねることになります。

 

信託契約に基づいて家族信託を始めることになるのですが、その際次の当事者が出てきます。

 

  • 財産を託す「委託者」
  • 財産を託される「受託者」
  • 信託財産から利益を得る「受益者」

 

なお、必ずしも3人が必要になるわけではなく、委託者=受益者と設定されることも多いです。

メリット・デメリット

家族信託を活用するメリットは次のようにまとめられます。

 

委託者の判断能力に影響されない

信託財産は、その所有者であった委託者から独立するため、委託者の判断能力喪失などの事由に影響されない。独立することに伴い、委託者が破産をしたとしても差し押さえの対象からは基本的に外れる。

共有不動産の問題を解消できる

複数人で不動産を所有しているときでも、当該物件を信託財産として受託者に任せれば、利益を受けつつ管理を1人に任せることができる。

亡くなった後の経済的支援ができる

子どもへの経済的支援を続けたいとき、自らの財産を信託しておけば、委託者が亡くなってからも継続的に資金を受け取ってもらうことができる。

事業承継ができる

後継者を受託者として自社株を信託することで、議決権の行使など経営に必要な行為を任せつつも、その時点での税の負担を回避することができる。

成年後見制度より柔軟に資産運用できる

認知症対策としては成年後見制度も使えるが、信託であればより柔軟な資産運用を委ねることができる。

遺言ではできない財産承継ができる

遺言書を使って財産承継を指定することもできるが、信託であれば二次相続以降の承継先まで指定ができる。

 

家族信託を上手く活用することができれば、これらさまざまなメリットを受けることができるでしょう。ただし、次のような問題点もあります。

 

  • 身上監護(身の回りの契約行為など)をお願いするには別途成年後見制度を利用する必要がある
  • 身近に財産管理を任せられる人物がいないと始められない
  • 家族間・親族間で不公平が生じるとトラブルが起こる可能性がある
  • 節税効果を得ることはできない

 

仕組みが複雑であるなどのデメリットもあり、なかなか一般の方だけで始めることは難しいでしょう。節税効果を得たい場合にも別途対策を検討する必要がありますので、専門家も活用することを検討すべきです。

家族信託の活用方法

家族信託はさまざまな場面で活用することができます。代表的な活用方法としては「認知症対策」が挙げられ、他にも「共有不動産対策」「親亡き後の障害者対策」「事業承継対策」が挙げられます。

認知症対策

財産の所有者が元気なうちに子どもへと財産の管理を委ねておくことで、委託者が判断能力をその後失っても資産凍結を防ぐことができます。

 

例)高齢の母は判断能力の低下を自覚していて将来に不安を感じている。父はすでに亡くなっていて、推定相続人は別居している長男1人である。母は、元気なうちは自宅に住み続けて、不自由が出てきたら施設に入りたいと考えている。また、その際は自宅を処分してもらいたいとも考えている。

 

この状況下で何ら対策を取らず母が認知症となり判断能力を失ってしまうと、自宅の売却などもできなくなってしまいます。すると施設に入るための資金も確保できず、結局入居ができなくなってしまう事態も起こり得ます。
母が亡くなると長男が自宅を相続した売却することもできますが、認知症になっていたとしても母が亡くなっていないのなら長男が勝手に売却することは認められません。

 

一方、家族信託を活用すればこの問題も解決できます。母が委託者兼受益者、長男を受託者、自宅を信託財産として設定すると、母が判断能力を喪失しても長男が受託者としての権限で自宅を売却できます。

共有不動産対策

不動産は複数人で所有することもできます。しかし共有不動産の取り扱いは面倒事も起こりやすく、共有者間で揉めてしまうリスクが高いのです。しかし家族信託を使えば管理を一本化することができ、不動産を有効活用しやすくなります。

 

例)ある兄弟3人で、親から相続で取得した不動産を所有している。それぞれの持分は1/3ずつ。3人とも高齢のため、このまま共有を続けていると相続でさらに共有関係が複雑化したり、認知症により適切な活用ができなくなったりすることを危惧している。

 

共有不動産がある場合でも、家族信託の仕組みを使えば受託者へと管理権限を集約することができます。また名義人全員が高齢である場合だとリスクも大きいですが、子どもなどの比較的若い世代へと権限を移すことで認知症のリスクも下げることができます。体調不良によって管理に支障が出るといった事態も避けやすくなるでしょう。

親亡き後の障がい者対策

障がいを持った子どもがいる場合、親が亡くなると経済的なサポートが受けられなくなるため、サポートを継続するための仕組みを作ることが重要になってきます。

 

例)高齢の夫婦には重度の障がいを持つ子どもがいる。これまで、また今後も生活を支えていくつもりであるが、自分たちが元気でなくなったときに子どもがどうなってしまうのかを不安を抱いている。

 

行政による福祉サービスもありますので、親による支援がなくなることで一切のサポートが受けられなくなるということでもありません。しかし行政による支援だけで十分とは限らず、財産管理の面では特に不安が残ることもあるでしょう。このようなときは家族信託の活用を検討します。
預金などの財産を、甥っ子や障がいを持つ子どもの兄弟など、信頼できる親族に託すことで生活に必要な資金を給付し続けることができます。

事業承継対策

現在、事業承継の問題が全国的に起こっています。会社経営者が高齢となり、後継者への引き継ぎ対応に困ったり後継者が見つからなかったりして、事業の運営に支障をきたしているのです。事業承継ができなければ、赤字になっていない場合でも会社を閉じるしかなくなるケースもあるのです。

 

例)8割の自社株を持つ高齢の父がいる。父は会長としての肩書で、事実上の経営は代表取締役社長である長男が行っている。父は株式の引き継ぎをしたいと考えているが、株式の単価が高いため譲渡や贈与がまだできずにいる。

 

株式会社における事業承継は株式の移転により行われます。しかし株式を贈与するには贈与税がかかり、税金の負担も大きいです。また、株式を贈与してしまうと配当金などの利益を受けることもできなくなってしまいます。

 

一方で株式を対象に家族信託をすれば、贈与税の問題や利益の問題を解決することができます。父を委託者兼受益者、長男を受託者、株式を信託財産とし、また父が亡くなってからは長男に財産が帰属する旨を定めておきます。父が受益者であるうちは贈与税が長男に課されませんし、他方で議決権の行使を長男に任せることで後継者育成を進めることもできます。

 

家族信託は多様なニーズに応えることができる反面、契約内容を設計するのが大変です。信託銀行などのサービスとして提供されている商事信託であればある程度決まった枠内で信託を始めますのであまり難しいことを当事者が考える必要はありません。しかし家族信託だと自ら契約内容やその手続のことなども考えていかなくてはなりません。そのため、できるだけ専門家のサポートも受けつつ、安全に家族信託が始められるように気を付けなくてはなりません。