相続税対策として有効な手段の1つが「生前贈与」です。贈与税・相続税の仕組みをよく理解した上で適切な贈与を行えば、全体として大きな節税効果を得られることもあります。特に重要なのは特例の利用です。基本的には贈与税の方が相続税より負担が大きくなるため、課税される割合をできるだけ小さくして財産を移転することが重要になってきます。
具体的にどのような方法で生前贈与をすると良いのか、またその際の注意点についてもここにまとめていきます。
目次
贈与をしておけばその分相続財産が少なくなりますので、できるだけ多く贈与するほど相続税額は小さくなります。しかし贈与税がそれ以上に大きくなってしまうと本末転倒です。節税対策において重要なのは、贈与税と相続税のバランスを考慮して全体としての納付額を小さくすることですので、何も考えずいきなり贈与をすべきではありません。
そこでまずは税理士に相談して「どの財産をどうやって贈与するべきか」を考えていきましょう。人によって所有している財産は異なりますし、利用できる特例にも違いがありますので、対策も人それぞれ異なります。最適解を得るためには税のプロである税理士の力を借りる必要があるでしょう。
その後贈与を実行していくことになりますが、特例を利用するときは特定の手続を行わなければなりません。また、不動産の場合は登記申請も必要です。これら名義変更にも手間がかかりますし、費用も発生します。
贈与税が課税されるときは贈与税の申告と納付も行いましょう。
贈与税の基礎控除額は110万円です。基礎控除であれば、誰でも無条件で適用を受けられます。
そこで生前贈与したい財産の価額が大きくないときは、この110万円という金額を意識して贈与すると良いでしょう。例えば100万円相当の財産をいくつか贈与したい場合、これを1年以内にまとめて譲渡してしまうと110万円を超えた分に課税されてしまいます。
しかし分散して贈与をすれば毎年110万円を控除することができ、非課税で贈与できます。
贈与に関しては、課税方式を①暦年課税と②相続時精算課税の2種類から選ぶことができます。
原則は①ですが、手続を行えば②によることもできます。
そして②によるときは、1年間で区切って贈与税を処理するのではなく、年をまたいで計算を行います。合計額から2,500万円の特別控除を差し引くことができ、その分贈与税の負担は軽減され、2,500万円を超えた分についてのみ贈与税が課税されます。
※2024年以降は相続時精算課税においても基礎控除110万円が適用できる。
ただ、特別控除の分がまるまる節税できるわけではなく、相続時に精算が必要です。そこで相続時精算課税は大きな節税効果を得るためというより、税負担を下げて贈与をするために利用されます。「確実に渡しておきたい財産がある」「受贈者に納税資金がない」といった場面に有効でしょう。
住宅の取得、住宅の新築・増築・改築をする目的の金銭を贈与するときは「住宅取得等資金の特例」を使えることがあります。
この特例の適用を受ければ、最大1,000万円の金銭を贈与しても非課税にすることができます。ただし上限を1,000万円にするには対象となる住宅が「省エネ等住宅」の定義に当てはまる必要があります。
《 省エネ等住宅の要件:次のいずれかを満たすこと 》
この要件を満たさない場合は非課税にできる上限額が500万円となります。
また、上限額に関わらず、贈与を受ける人物が「贈与者の直系卑属」「贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上」「所得2,000万円以下」であるという条件を満たさないといけません。
※直系卑属:子、孫、ひ孫などのこと。
贈与相手が配偶者であって居住用不動産を贈与するときは、配偶者控除の利用を検討しましょう。
「婚姻期間20年以上」「同じ相手との間で過去に配偶者控除を利用していない」「贈与財産は居住用の不動産あるいは居住用の不動産を取得するための金銭であること」などの条件を満たせば、最大2,000万円の控除を受けられます。
基礎控除110万円を合わせて使うことができますので、最大2,110万円の不動産を非課税で贈与可能になります。
教育のために必要な金銭を贈与したいときにも特例が使えます。
「直系卑属に対する贈与であること」「受贈者が30歳未満であること」「金融機関で贈与対象の金銭を管理する専用口座を作ること」「贈与後も領収書等を金融機関に提出するなどの手続を行うこと」等の条件が付されています。
特例を使えば最大1,500万円、学校以外の教育資金については500万円まで非課税で贈与することができます。
前項の教育資金を贈与するときの特例と似た仕組みに、「結婚・子育て資金一括贈与の特例」があります。
こちらも「直系卑属に対する贈与であること」「金融機関で贈与する金銭を管理する専用口座を作ること」「贈与後も領収書等を金融機関に提出するなどの手続を行うこと」の条件があり、そして「贈与を受けた年の1月1日において受贈者が18歳以上50歳未満であること」「受贈者の所得が1,000万円以下」を満たせば、贈与税の負担を軽減させられます。
なお、こちらの特例では最大1,000万円、結婚時に贈与する金銭については300万円まで非課税で贈与することができます。
生前贈与をするときは、贈与の記録を残すことが大事です。
また、形だけの贈与も認められませんので名義預金には注意しましょう。子どもの名義ではあるものの実質親が管理している口座だと、そこにお金を入れたからといって生前贈与をしたと評価されない可能性があります。
その他重要な点を3つ、以下で説明します。
基礎控除に関しては適用を受けるために特別な手続を行う必要がありません。しかし上に挙げたその他の手段に関しては、定められた通りの手続をしておかないと恩恵を受けられません。
「特例の効果で非課税になるから申告も税金の納付も必要ない」ということにはなりません。納付額が発生しない場合でも基本的に手続が必要です。
相続税のルールには「生前贈与加算」というものがあります。これは、「生前贈与をしており本来贈与税の問題として処理すべき財産であっても、相続財産として含める」というルールのことです。
このルールがあることで、相続開始前3年以内に生前贈与をしても節税効果が得られなくなる事態が起こり得ます。
また、2024年1月1日以後に行われた贈与については適用される生前贈与加算のルールが変わります。これまで加算対象の期間は「3年間」とされていたところが「7年間」に延ばされるのです。
※相続開始前4年から前7年に行われた贈与分に関しては、その合計から100万円が控除される。
教育資金一括贈与の特例、結婚・子育て資金一括贈与の特例を使った贈与などは生前贈与加算の対象外となりますが、過去の分まで遡って相続税の課税対象になり得る点には注意が必要です。
生前贈与が原因となり、相続人間・親族間でトラブルが発生するおそれがあります。贈与契約の段階では贈与者の所有物ですし、その方の好きなように処分が可能です。しかし特定の人物だけが極端に優遇されていると、その他の推定相続人、家族などから不満の声が出てくることもあります。
法的な問題がない場合でも、できればその後の親族の関係性なども考慮した方が良いでしょう。何も知らされていない場合に比べると、あらかじめ家族に相談をしておくだけでも揉め事は起こりにくくなります。