「後見人」とは、本人をサポートすることを職務とする人物のことです。具体的には、契約の締結などの法律行為を主にサポートします。判断能力が衰えた本人が詐欺被害に遭うこともあるでしょうし、誤った判断により損失を被ることもあります。
こうした問題を防ぐために、後見人制度は設けられているのです。
ただ、後見人にもいくつか種類があります。本人に対する支援の厚さ、後見を始める際の手続の違いなどに応じて異なる後見人が選任されます。
ここでその種類を解説していきます。
後見人は、まず“法定後見制度による後見人なのか”、それとも“任意後見制度による後見人なのか”という点に着目して分類をすることができます。
前者の場合は「成年後見人」「保佐人」「補助人」に分類することができ、後者の場合は「任意後見人」と呼ばれます。
“判断能力を欠いている者”に対しては、後見人として「成年後見人」が選任されます。支援の対象となる本人は「成年被後見人」と呼ばれます。
(後見開始の審判)
第七条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、・・・後見開始の審判をすることができる。(成年被後見人及び成年後見人)
第八条 後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とし、これに成年後見人を付する。
本人からの後見開始の申し立て、その他、配偶者や4親等内の親族、市町村長、検察官が申し立てをできます。
裁判所の公表しているデータによると、平成30年から令和4年において、後見開始の申し立ては毎年2万7,000件前後行われていることが明らかになっています。
成年後見人の選任は、“判断能力に衰えがある”だけでは不十分です。
“本人に判断能力がない”と評価されなければいけません。
そこで成年後見人は、本人のする法律行為について広範な権限(代理権)を持っています。仮に本人が自ら法律行為を行ったとしても、成年後見人はその行為を取り消すことができます。
※日用品の購入など、日常生活に関する行為まで取り消すことはできない
判断能力がゼロにはなっていないものの、“本人の判断能力が著しく不十分”であると評価できるとき、保佐開始の審判は行うことができます。そして選任されるのが「保佐人」です。支援対象となる本人は「被保佐人」と呼ばれます。
(保佐開始の審判)
第十一条 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については、家庭裁判所は、・・・保佐開始の審判をすることができる。ただし、第七条に規定する原因がある者については、この限りでない。(被保佐人及び保佐人)
第十二条 保佐開始の審判を受けた者は、被保佐人とし、これに保佐人を付する。
本人・配偶者・4親等内の親族・市町村長・検察官が審判の申し立てをできるのは成年後見人のときと同じです。
ただ、成年後見人に比べて保佐人は権限が限定的です。
成年被後見人は法律行為につき広範に制限をかけられており、単独で法律行為をすることは基本的にできません。
しかし被保佐人の場合は、保佐人の同意があれば自ら法律行為をすることができます。それも民法に規定されている特定の行為に限られています。
つまり保佐人は、本人のする特定の行為に限り、同意をする権限を持つにとどまるのです。
なお“特定の行為”とは、次のような行為のことです。
民法第13条に規定が置かれています。
なお保佐開始の申し立て件数はおおよそ6,000~8,000件です(平成30年~令和4年)。後見開始の1/3程度の件数であることがわかります。
“本人の判断能力が不十分”と評価できるとき、補助開始の審判をすることができます。後見開始や保佐開始よりも判断能力に対する要件は緩やかで、比較的軽度の精神障害等で利用することが想定されています。
補助開始で選任されるのは「補助人」で、支援対象となる本人は「被補助人」と呼ばれます。
(補助開始の審判)
第十五条 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、・・・補助開始の審判をすることができる。ただし、第七条又は第十一条本文に規定する原因がある者については、この限りでない。
2 本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない。(被補助人及び補助人)
第十六条 補助開始の審判を受けた者は、被補助人とし、これに補助人を付する。
補助開始の申し立てに関しては、本人の他、配偶者や4親等内の親族、市町村長、検察官が行うことができます。ただ、本人以外が申し立てをするときは、“本人の同意”が求められます。
また、法第15条第1項に「ただし、第七条又は第十一条本文に規定する原因がある者については、この限りでない。」とあるように、後見開始(法第7条)や保佐開始(法第11条)をすべき場面では補助開始だと本人へのサポートが不十分になりますので、補助開始の審判をすることはできません。
補助人の権限は保佐人と比べてもさらに限定的です。
保佐人に認められていた“特定の行為に対する同意権”をさらに縮小し、“特定の行為のうち、家庭裁判所の認めた行為に対する同意権”を持つにとどまります。
本人のする重要な行為を全般的に制限するのではなく、さらに限定した法律行為だけを支援したいときに補助開始の審判が機能します。
なお、補助開始の申し立て件数は年間1,500~2,700件ほどで(平成30年~令和4年)、保佐開始よりさらに少ない件数であることがわかっています。
上に挙げた成年後見人・保佐人・補助人は、法定後見制度に基づく後見人です。
これに対して任意後見制度に基づく後見人は「任意後見人」と呼ばれます。
前者は事後対応として利用される制度です。すでに本人の判断能力に不足が生じている場面で申し立てが行われます。
一方の任意後見制度は、事前対応として利用される制度です。契約を締結するのに必要な判断能力が備わっている状態で、将来の判断能力低下を見越し、準備行為として行うことになります。
本人が任意後見契約を締結することが条件となり、任意後見人の指定や、任意後見人の権限の範囲なども契約で定めることができます。そのため自由度が高い後見制度であるともいえます。
ただ、裁判所を一切介さないとなれば不正が行われるリスクが高まってしまい、後見制度本来の趣旨が損なわれるおそれがあります。
そこで任意後見制度の場合、公正性の担保として、家庭裁判所から「任意後見監督人」が選任されます。この選任があってから、任意後見契約の効力が生じます。
なお、任意後見監督人の選任の申し立て件数は毎年800件前後で(平成30年~令和4年)、補助開始の申し立てよりさらに少ないです。
任意後見制度では、任意後見監督人が必置です。
法定後見制度でも、必置ではないものの、後見監督人を選任することは可能です。また、成年後見・保佐・補助のいずれについても選任が可能です。
任意後見か法定後見か、利用する制度により監督人の名称は異なりますが、職務内容に大きな違いはありません。
後見人が不正をはたらかないかどうかをチェックするのが主な役割で、民法でも「後見監督人の職務」として次の行為を列挙しています。
監督人には、後見人のする事務内容を評価できるだけの専門知識が備わっていないといけません。そこで一般的には弁護士や司法書士などの専門家が監督人として選ばれます。