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財産管理や相続に関する認知症対策! 本人や家族が取るべき事前事後の対応とは

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認知症を患うことで、数々のトラブルが生じることがあります。家族とのコミュニケーションや介護などの問題もありますが、法的な問題も起こります。

財産管理が難しくなりますし、契約を締結すること、相続に関する対応も難しくなってしまうかもしれません。

 

当記事では認知症対策として有効な手段をいくつか紹介します。認知症罹患への備え、また、認知症になってから取り得る対策についても紹介していきます。

 

認知症により起こる法的なトラブル

認知症を患い判断能力が衰えると、身近な人との意思疎通もままならなくなることがあります。コミュニケーションに支障をきたし、人間関係に問題をもたらすケースもあります。
また、本人が自らの財産を管理すること、契約の締結といった法律行為をすることも難しくなってしまいます。

 

法的には認知症になったかどうかというより、「判断能力を失った」といえるかどうかが重要です。判断能力を失ったのであれば単独で有効な法律行為ができなくなり、財産の譲渡など、相続対策についてもその後進めるのが難しくなってしまいます。

 

預貯金の名義人であっても引き出しができなくなることがあり、家族であっても自由に引き出しはできないため、生活費に困ることもあります。

 

財産管理や相続に関する認知症対策

本人の持つ財産の管理や処分、今後の相続に向けてどう対策を取れば良いのでしょうか。この観点による認知症対策として次の手段が考えられます。

 

  • 遺言書の利用
  • 生前贈与
  • 任意後見制度の利用
  • 家族信託の利用
  • 法定後見制度の利用

 

各対策の内容を説明していきます。

 

遺言書の利用

前もって遺言書を作成しておけば、突然相続が始まっても、スムーズに遺産の分配ができます。遺言内容次第ではありますが手続も円滑に進めることができ、誰がどの財産を取得するのかといった点で争いも生じにくくなります。

 

いったん有効に遺言書を作成することができれば、その後遺言者が認知症になり判断能力を失ったとしても問題はありません。

 

ただし、「認知症になってからの遺言書作成」には注意が必要です。

 

遺言書が有効であると評価されるには、遺言書作成時点で遺言者に遺言能力が備わっていることが求められます。遺言内容を理解し、誰にどのような効果が生じるのかが把握できていないといけないのです。

 

とはいえ「認知症患者=遺言能力がない」という等式は常に成り立つものではありません。認知症にも軽度~重度まであり、遺言に関する判断能力がまだ十分であれば遺言書も有効に作成できます。
しかしながら、作成時点で認知症であった場合は後々有効性につき争いが起こりやすいです。作成時に遺言能力があったことを客観的に示せる必要があるでしょう。

 

すでに認知症になっている場合には、公正証書として遺言書を作成することをおすすめします。作成過程では公証人が本人の状態も確認しますし、有効な遺言書作成がしやすいといえます。

 

生前贈与

相続対策として行われる贈与は「生前贈与」と呼ばれます。本人が亡くなる前に財産を譲渡しますので、確実に渡したいものが渡せます。また、税制をよく理解した上で贈与をすれば、相続税対策にもなります。

 

配偶者や子ども、その他の人物に渡したい財産が決まっている場合、生前贈与をしておけば、その後認知症になっても問題はありません。

 

一方、認知症になってからの生前贈与には遺言書作成と同様の問題が生じます。贈与契約を交わすだけの判断能力がなければ、無効になる危険があります。そのため認知症を患ったことがわかったときは、早めの対応が求められます。判断能力がないと評価されると生前贈与はできません。

 

法定後見制度の利用

生前贈与は、契約で定めた特定の財産に限って効果を発揮します。遺言書についても同様です。包括遺贈(特定の財産ではなく、財産の割合を指定してする遺贈)とすることで範囲を広げることはできますが、その効果は相続開始後に限られます。

 

これに対し「法定後見制度」を利用することで、本人の存命中、本人の財産管理について広くサポートを行うことができます。認知症により判断能力を欠いた、または衰えてから同制度を利用することができ、財産の保護のみならず法律行為などのサポートについても対応可能です。

 

家庭裁判所に申立てを行い、判断能力の程度に応じた法定後見人(成年後見人、保佐人、補助人)が選任されます。それぞれ権限が異なり、「本人を代理する権限」が与えられるケースもあれば、「本人のする特定の行為に限り同意を付すことができる」権限に限られるケースもあります。

 

任意後見制度の利用

「任意後見制度」は、本人と任意後見人候補者との契約を前提に利用できる後見制度です。

 

法定後見制度は事後対策として機能する制度ですが、任意後見制度は事前対策として有効な手段です。認知症になることを想定し、本人があらかじめ後見制度の利用を契約により定めるのです。本人の信頼できる人物を後見人として指定することができ、フォローしてほしい内容も契約により指定できます。

 

契約後、認知症等により判断能力が衰えたときは、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申立てます。この監督人が選任されてから任意後見は始まります。

 

家族信託の利用

後見制度による認知症対策は、財産運用という面においては消極的な対策であるともいえます。後見人は、本人(被後見人)の誤った判断等により財産が散逸してしまうのを防ぐのが主な役割であって、財産を増やすための積極的な財産運用は基本的に行いません。

 

これに対し「家族信託」は、より自由に、積極的な財産運用も可能です。
家族信託は信託契約の1種で、家族内、あるいは親族内で信託契約を交わすことを意味します。認知症になる前、契約を交わすための十分な判断能力が備わっていることが前提ですが、家族信託により細かく指定した財産運用が実現可能です。相続対策としても有効です。

 

家族信託を始めると、運用対象となる財産は「信託財産」となり、委託者(当該財産を所有していた本人)から受託者へと所有権が移ります。受託者は委託者との契約内容に従い財産運用を行い、そこから生じる利益は受益者が受けることになります。

 

この①委託者、②受託者、③受益者の3者から構成される契約を交わすのですが、委託者と受益者を兼ねることも可能です。自らの財産を受託者に預けておくことで、委託者が認知症になってもその財産から自身の生活をサポートしてもらうことができます。

 

契約内容の定め方には工夫が必要で、法律の専門家、税の専門家の意見も参考にしつつ家族信託を設計していくことが大事です。

 

認知症対策は早期に始めよう

認知症対策として、遺言書の作成や生前贈与、後見制度の利用、家族信託の利用などが挙げられます。多くの対策は、認知症になる前、認知症により判断能力が失われる前に実行しないといけません。

 

認知症になる瞬間を予期することはできませんし、自覚することも難しいです。徐々に悪化し、気付けば手段が限られているということも起こり得ます。

 

そのため判断能力に問題のないうち、早期に対策を取ることがとても大事です。