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任意後見人選任のルールと着目すべき重要なポイントを解説

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医療サービスや介護サービスの契約行為、財産管理などに不安を感じた場合の法的支援制度として成年後見制度があります。支援してもらいたい任意の事柄を契約で定めておくこともでき、この場合の事務に対応してもらう人物を「任意後見人」と呼びます。

 

契約を交わす際に、制度を利用する本人が任意後見人を選ぶことになるのですが、その際確認しておきたい事項がいくつかあります。当記事ではこの選任に関するルールやポイントを解説します。

 

任意後見人の選任は本人の自由

任意後見人となる人物、任意後見受任者に資格は必要ありません。基本的には本人が自由に選ぶことができ、希望に叶う候補者を任意後見受任者とすることができます。これが任意後見人選任の基本です。

 

そこで、次のような人物を候補に検討を進めていきます。

 

任意後見人の候補具体例や特徴
親族

後見の対象になる本人の兄弟や子ども、その他身近な親族などがよくある候補。親族でなくとも、親しい友人を選任することも可能。

本人に対する理解度が高い点でふさわしいといえるが、専門的な知識や経験が不足しているケースが多く、また、不正が起こりやすいという難点もある。

専門家

司法書士や社会福祉士、弁護士などの専門家を選任することも可能。

契約の締結や財産管理など、任意後見人としての職務遂行に必要な知識を備えており安心感が得られる。近年、専門家等の第三者が選任される例が増えている。

市民後見人

特別な資格を持つ専門家ではないものの、自治体が研修などを実施して特定の技能を備えた市民後見人も候補に挙げられる。

任意後見に精通した専門家が不足しているという現状があるため、市民後見人も活用されるようになってきている。

法人

法人を選任することも可能。

どのような法人でも選任できるが、社会福祉法人や信託銀行などが対応することが多い。

 

なお、任意後見人は1人に絞る必要はありません。報酬の問題も考える必要はありますが、安心して将来の生活を支えてもらうため、複数人の選任を検討するのも良いでしょう。

 

複数人の任意後見人を選任するときのパターンは大きく2つ、「各任意後見人が独立して後見事務に務める」パターンと、「任意後見人が共同で後見事務を務める」パターンです。

 

前者のパターンは、任意後見人の1人が事故に遭うなどして職務を遂行できなくなった場合にも対応可能です。しかしながら、各々が同じ事務を行ってしまい報酬の二重払いが発生するなどのリスクがあります。

 

後者のパターンは、任意後見人同士が各々の事務内容を監視する関係性を作り出すことができます。しかしながら、単独で仕事ができないことで事務処理に時間がかかってしまうこと、手間がかかってしまうなどのリスクがあります。

任意後見人を選ぶときの流れ

任意後見人を選ぶとき、次の流れに沿って検討を進めてみましょう。

 

  1. 欠格事由に該当する人物を除く
  2. 利害関係を持つ人物を除く
  3. 任意後見人としての適性に着目

欠格事由に該当する人物を除く

後見人として欠格になる事由がいくつか法律で定められていますので、これらの事由に該当する人物は除外しましょう。

 

第八百四十七条 次に掲げる者は、後見人となることができない。
一 未成年者
二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
三 破産者
四 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
五 行方の知れない者

引用:e-Gov法令検索 民法第847条

 

※「家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人」とは、後見人等になったことがあるものの解任された経歴を持つ人物を意味する。

※「破産者」とは復権をしていない人物のことであり、過去に自己破産をした者すべてを指すわけではない。

※「被後見人に対して訴訟をし、又はした者」とは、被後見人になる本人と裁判で争っているまたは争ったことがある者を指す。強制執行等の手続を行った場合も該当し得る。

 

なお、未成年者の年齢は近年法改正で引き下げられ、現行法では“18歳未満”となっています。18歳以上であれば選任できます。

利害関係を持つ人物を除く

任意後見人になると、本人の代わりに契約行為などを行うことになります。このとき任意後見人がその契約相手になれてしまうと、本人にとって不利で、任意後見人に有利な契約を交わすこともできてしまいます。

 

例えば、介護サービスを提供する法人が任意後見人になったとしましょう。当該法人が任意後見人として自社に申込を行うことで、自社に都合の良いサービス内容で契約を交わすこともできてしまいます。

 

この場合、「本人との関係において利害関係を持つ」と表現され、任意後見人としてふさわしくありません。任意後見を開始する際、家庭裁判所も利害関係をチェックしますので、契約の段階で利害関係を持つ可能性のある候補者は除外しておくことが大事です。

 

親族間でも利害関係が対立するケースがありますので要注意です。特に問題が起こりやすいのは相続の場面です。本人と任意後見人が兄弟の場合、相続をめぐる遺産分割協議で利害関係が対立してしまいます。

任意後見人としての適性に着目

欠格事由に該当していないこと、そして利害関係も持たないことを確認の上、次に「任意後見人としてふさわしい人物かどうか」をチェックしましょう。

 

契約内容にもよりますが、任意後見人は主に①財産管理事務と②身上保護事務を遂行することになります。適切な事務遂行を期待する上で着目したいポイントは次の通りです。

 

  • 経済力
  • 経歴
  • 年齢
  • 面倒見の良さ
  • 住所

 

「経済力」や「経歴」は、財産管理能力を判断する上で重要な情報になります。不動産や株式など、資産運用を行っているという背景があれば、財産管理のために必要な知識がある程度備わっていると考えることもできます。また、経済力があるなどお金に困っていない方のほうが不正を起こすリスクも小さいといえます。

 

「面倒見の良さ」は身上保護事務に関わってきます。身上保護事務とはつまり本人の生活や医療・介護・福祉などの充実に向けて法的支援を行うことを意味します。本人のためを思い、必要なことは何かを考えられる人物である方が適しています。細かな事務作業も多く発生しますし、タスクを着実にこなせる丁寧さも大切です。
また、本人の住まいと近い距離に住所が置かれていることも、身上保護において重要です。任意後見人自身が介護を行う必要はありませんが、近くにいる方が生活状況を把握しやすいためです。

 

「年齢」に関して、本人より若いことも重要です。本人と同時期に判断能力が衰えてしまっては意味がありませんので、本人より下の世代から候補者を探しましょう。
なお、法人を選任すれば年齢などの問題を気にする必要はなくなりますが、上述の利害関係がないこと、そして倒産のリスクについても要チェックです。法人に死亡という概念はありませんが、破産して消滅するおそれはあります。

任意後見人の候補者がいない場合の対応

従来、家族を任意後見人の候補に挙げることも多くありましたが、近年はその傾向も変わりつつあります。人として信頼できるだけでなく、任意後見人として適切な知見を有していなければならず、そのような人物を親族・友人の知人の中から見つけるのは簡単ではありません。

 

候補者が見つからないときは、積極的に自治体の窓口や専門家を頼りましょう。候補者についての相談を持ち掛け、適任者がいないか、候補の提案を受けるなどすると良いです。相談先の専門家を任意後見人とすることも可能です。