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相続税申告が必要になる基準とは?その計算や適用される控除について

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相続税の申告は誰にでも必要なことではありません。義務が課せられているのは、一定額以上の、大きな相続財産がある場合に限られます。そこで「いくら以上なら申告が必要なのか」の基準を知っておくことが大切です。この基準に関する基本的な考え方と計算の方法をここで解説していきます。

 

 

正味の遺産額が基礎控除額を超えるかどうかが基準

相続税は、相続財産のすべてに対し課税されるわけではありません。以下の計算方法に従い算出される「課税遺産総額」がある場合に課税されます。

 

  1. 「遺産総額」に「相続税精算課税を受ける贈与財産」を加算
  2. 1.の総額から「非課税財産」「葬式費用」「債務」を差し引いて、「遺産額」を算出
  3. 遺産額に「相続開始前3年以内の贈与財産」を加算して、「正味の遺産額」を算出
  4. 正味の遺産額から「基礎控除額」を差し引いて、「課税遺産総額」を算出

 

そこからさらに相続人個別の計算をしていくことになるのですが、正味の遺産額の時点で基礎控除額を超えていなければ、控除が適用される結果、課税遺産総額は0円となります。
そのため「正味の遺産額はいくらなのか」、そして「基礎控除額がいくらなのか」が相続税申告の必要性を判断する上でポイントになってきます。

正味の遺産額とは

正味の遺産額を導き出すには、上の計算手順の通り、様々な財産の価額につき評価をしていかなければなりません。

 

例えば遺産総額を計算するには、宅地や建物の評価をしなければなりません。宅地については「路線価方式」や「倍率方式」などと呼ばれる評価方法があり、適した方式を選択して正しく評価していく必要があります。建物に関しても、「固定資産税評価額」によって評価するなど、現金や預貯金などしか保有していない場合と比べて遺産総額を調べるのは大変になります。

 

また、非課税財産や葬式費用、債務については課税の計算上は差し引くものとされています。債務は被相続人がした借金などのことです。相続財産であることに変わりはありませんが、マイナスの価値を持つ財産ですのでこの分は課税対象となりません。被相続財産には以下のようなものが含まれます。

 

  • 仏壇・祭具・墓所等
  • 国、地方公共団体や特定の公益法人に対して寄付した財産
  • 生命保険金および死亡退職金の一定額(500万円×法定相続人数で算出)

 

さらに、相続が開始される前3年以内に行われた贈与財産の価額を加算することも忘れないようにしなければなりません。なお、すでに当該贈与に対する贈与税を納付していた場合、その税額分はのちに控除されます。

基礎控除額とは

基礎控除(正確には「遺産に係る基礎控除」)は、他の控除制度と異なり、常に適用されるものです。
具体的な控除額は法定相続人の数によって異なりますので、申告有無の基準も状況によって変わることとなります。ただし、以下の計算式で算出されますので唯一の相続人がいる場合を想定した「3,600万円」は1つの基準になるでしょう。

 

基礎控除額 = 3,600万円 × 法定相続の数

 

つまり、2人なら4,200万円、3人なら4,800万円、4人なら5,400万円・・・といった具合に基準は変動します。

 

なお、相続放棄をした人がいる場合でも、その者を含めて計算しますので注意しましょう。誰かが放棄の申述をしても相続税の基礎控除に関しては影響を受けません。

 

もう1点注意すべきは、養子がいるケースです。養子縁組をすることでもともと法定相続人ではなかった者も法定相続人となります。そうすると基礎控除額も増すことになるのですが、不当に基礎控除を増やすことのないよう、制限が設けられています。
実子がいる場合だと、2人以上の養子がいても基礎控除の計算においてカウントできる養子は1人までです。実子がいない場合でも、養子は最大で2人までしかカウントできません。

 

相続人別に利用できる控除によっても変わる

以上で説明したのは、1つの相続事案に関して、「全体として相続税申告が必要なのかどうかの判断」をするための基準です。そのため、正味の遺産額が基礎控除額を上回らないときには、基本的に誰も申告の必要がないということになります。

 

ただ、基礎控除額を上回る場合でも、常に相続税の申告が必要になるとは限りません。なぜなら、基礎控除とは別に、各人適用し得る控除があるからです。
そのため、基礎控除額を差し引いて残った額が少額である場合、他の控除を適用させることで結局全員申告が必要なくなるというケースも起こり得ます。

代表的な控除の例

被相続人の配偶者については、相続税の申告をしなくて良いケースがほとんどです。なぜなら控除額が非常に大きい「配偶者控除(配偶者の税額軽減)」が利用できるからです。

 

他にも、様々な控除制度がありますので、下表を参考に各人の相続税申告の必要性を判断することが大切です。

 

控除制度内容
配偶者控除
  • 被相続人の配偶者に適用
  • 実際に得た正味の遺産額が1億6,000万円以下、あるいは法定相続分相当額以下まで控除可能
  • 適用するには相続税の申告書の提出が必要
贈与税額控除
  • 贈与税と相続税で二重課税をされた場合に適用
  • 相続開始前3年に行われた贈与は相続分として計算に含まれるため、二重課税を防ぐためにとられた措置
  • 得になる制度ではなく、損を防ぐための制度
未成年者控除
  • 国内に住む未成年者に適用

    ※2022年4月1日以降の相続なら「18歳未満」、以前の相続なら「20歳未満」が未成年者に該当

  • 現在から成年になるまでの年数×10万円で計算

    ※2022年4月1日以降の相続なら、18歳に達するまでの年数で計算。8歳なら100万円の控除となる

障害者控除
  • 国内に住む、85歳未満の障害者に適用
  • 未成年者控除同様、年齢により控除額が算定される
  • 85歳までの年数×10万円で計算されるため、75歳なら100万円の控除となる
外国税額控除
  • 海外で納付した税金と相続税で二重課税をされた場合に適用
  • 相続等により外国にある財産を得、当該財産に関して外国で相続税に相当する課税がされていることが要件
  • 得になる制度ではなく、損を防ぐための制度
相次相続控除
  • 立て続けに相続(二次相続)が発生した場合に適用

    ※二次相続:一次相続における被相続人がA、相続人がBであるとし、その後Bが亡くなって開始される相続のこと

  • 一次相続と二次相続の間に10年以上の期間が空いていれば適用されない
  • 実質、Aの財産に二重の課税がされるのと等しいと考えられることから、これを避けるために設けられた控除

 

基礎控除の計算自体は難しくありませんが、正味の遺産額の評価や、各人利用し得る控除制度まで考慮するのは大変です。相続開始を知ってから10ヶ月以内に申告および納税をしなければなりませんし、正しい内容で申告をしなければペナルティを課せられる可能性もあります。不安がある方は税理士に相談することをおすすめします。